【利根川 千代田町での水上バイク事故】
【群馬県・千代田町 利根川の水上オートバイ事故】
日時:2017年6月16日 金曜日 PM5時頃
天気:PM4:30頃から雷が発生、当時利根川下流からの風速12m/Sの強風、雨も降っていた。
弊社のお客様であるMさん(40代)が、一人で利根川 群馬県赤岩ゲレンデ 最下流スロープ付近で一人乗りの水上バイクの練習をしていた。
Mさんは、3人乗り水上バイク(ヤマハVXR'15)とシングル艇一人乗りの水上バイクを所有し、2艇積トレーラーに載せている。
一人で水上バイクに乗ることの怖さをよく知っているので、近くにいたウインドサーフィンの人たちに、「何かあったら、よろしくお願い致します。」と挨拶をしてから水上バイクの練習をしていたとのこと。
そして、自分なりに安全性を確保するため、ブイは岸近くに張り、何かトラブルがあった際にでも自力で岸に戻れるような対策をしていた。
水上バイク歴は20年以上と長く、経験・技術共に豊かなライダーだった事、整備された水上バイクだった事が、悪天候の中での今回の事故において、最悪の状況の中においても一つの命を救えたのだろうと思います。
●事 故 状 況●
その日Mさんは、キャリアカー(セーフティーローダー)にトレーラーと水上バイクを積載した車が、奥のスロープ方面へ向かっているのを見ている。
このゲレンデではそんな風にジェットを運ぶライダーはいないので、強く印象に残っていたようだ。
Mさんは、雷が鳴ったのをきっかけにPM4:30頃ジェットを引き揚げた。
その約10分後のPM4:40頃、Mさんのもとへ空荷となった先ほどのキャリアカーがすごい勢いで向かってきた。
車から降りてきたのは、タトゥーを入れた外国人(ブラジル人)2名で、恐ろしいほど真剣な形相をしていた。
「助けてください!仲間が溺れています!あちらへ来てください!」とかなり興奮していた。
Mさんは、彼らを見て最初(拉致されたり、殺されたりするんじゃないかという)恐怖を感じたが、あまりに真剣な形相にただ事ではない何かを感じ、半信半疑であったが彼らに誘導され、彼らが水上バイクを降ろしたという上流スロープ(群馬県側)まで水上バイクを牽引したまま自分の車で向かった。
スロープから水面を眺めると、埼玉側に流れ寄せられた1艇の水上バイクが見えた。
状況を察知したMさんは、その後直ぐにトレーラーから、3人乗り水上バイク(ヤマハ4ストロークVXR'15)を再度川へ降ろし、人命救助する覚悟を決めた。
そこでMさんは、自分ひとりで救助へ向かうことは危険だと感じ、陸上にいた2名のうちの1人を後ろへ乗船させ、その者に救助をしてもらうことにした。
Mさんが冷静であり、この判断を即座にとれた事、操縦者と救助者の2名体制で救助に当たったことが、二次災害を防いだ大きな要因であったのだ。
万が一、一人で救助へ取り掛かったならば、要救助者を救助する際にバランスを崩すことになるのだ。
そして、操縦不可能となっている上にバランスを失って、転覆することにも繋がるだろう。
そのような二次災害を避けられたことになる。
救助する際に2名体制であれば、操縦しながら操縦者がバランスを取ることができるし、離れてゆく要救助者へ的確に近寄ることが容易になる。
Mさんは、当然ではあるが自分のライジャケしか持ってきていない。
同乗し救助する人の分のライジャケはなかった。
なんと彼らは、ライフジャケットを1着も持っていなかったのだ!
しかしそんなことは今は言っていられない。1分1秒さえ早く救助へ向かう事が先決だと考えた。
躊躇する時間はない状況であったのだろうと思う。
今から消防へ連絡しても、消防が到着し、救助艇を降ろし、要救助者のところへたどり着くまでに、今から何十分掛かるのだろうか?と瞬時に考えたのではないだろうか。
よく[体が勝手に動いてしまった。]という話を聞くのだが、きっとそういった感覚なのだろうと思う。
即座に一人に同乗してもらい、Mさん達は救助活動を行っている。
この咄嗟の判断が結果として命を救うことに繋がったのである。
強風に煽られた水面は、今まで見たこともないような高波が立ち、ゴーグルをしていないMさんの顔面に波がぶち当たり、前方を見ることもままならない状況だったようだ。
通常こんな状況で、水上バイクに乗ることは決してない。
この状況下で水上バイクの操縦は、操縦に慣れているMさんでさえも容易ではなかった。
VXRに乗船した2人は、直ぐに誰も乗っていない水上バイクの500メートル下流に、プカプカと浮いている1名の男性(30代)を発見し、無事救助した。
警察の調査によると、救助付近の水深は2.5メートルだったようだ。
救助する際、抵抗などすることなく無抵抗のまま救助できたので、救助成功に繋がったのだろうと言っていた。
要救助者が脱力した状態でプカプカと浮いていた事は、不幸中の幸いだった。
泳げない人(又は泳げる人でも)、必死にもがこうとすればするほど体が硬くなり、沈んでしまうのだ。
プカプカと脱力した状態で浮いていたことで水面に顔を出して浮かんでいることが可能になり、呼吸が確保される。
そして、体力の温存にも繋がるのだ。
浮くものに掴まることができない場合、脱力した状態で大の字になって浮かんでいることが最も生存率が高くなることは、ラッシュガードのみの着用で20時間漂流して生還したと言う海難事故ニュースで聞いたことがある。
救助された者は、水上バイクの上に上がると、寒さからか恐怖からかガタガタと震え、救助した友人と共に2名ともパニック状態となりとても興奮状態であった。
かなりの水を飲んでいたらしく、ゲホゲホと咳き込んでいたようだ。
もし救助が、10分、いや5分でも遅れていたら命の保証はなかっただろう。
救助された者は、Tシャツ1枚の着用であった。
Mさんはウエットスーツを着用していたが、それでも寒く感じたと言っていた。
6月の利根川の水温は、思ったより、まだまだ冷たい。
水温が20度以下で30分も浸かっていれば、体温はどれくらい下がるのだろうか?
川の水温は、温暖な海水とは訳が違う。
まだ雪解け水が流れてくるような冷たい水なのだ。体温は一気に奪われてしまう。
ニュースによると、風速12メートルの強風。白波が立ち、雨が降って雷が鳴っていたそうだ。
そんな中、水上バイク1艇で救助する恐ろしさを想像してみてほしい。どれほど恐ろしい事だろう。
Mさんに当時の心境を聞いたところ、救助へ向かうことへの恐怖感は全くなかったらしい。
「火事場の馬鹿力」とは、こう言うことなのだろう。
1名の救助した男性を取り敢えず陸へ戻した。時刻PM5:05
Mさんが外国人から通報を受け、現場までの悪路に車を走らせ、水上バイクを水面へ降ろし、要救助者を救助し、安全な陸上まで戻すまで25分しか掛かっていない。
このような迅速な対応には、本当に頭が下がる。
Mさんの的確で迅速な判断・行動力と水上バイクの機動力・運動性能の良さならではだろう。
陸上に待機していた外国人の仲間が消防へ救助要請をしたのは、この後のPM5:07。
そして、Mさんたちは直ぐさまもう1名の救助へ向かった。
しかし、いくら探しても見つけられない。
川で流されて、もしかしたら埼玉側へ泳ぎ着いたのかと思い、埼玉側へ水上バイクで向かったら、近くの岸に年配の男性がいたので、「男性を見ていませんか? 誰かいなかったですか?」と聞いてみたが、「誰もいなかった。見ていない。」と言われたそうだ。
通報から20分後、群馬県の消防が到着し救助活動を行っていたら、もう一人水面に漂っている、水上バイクのライダーがいたようだ。その男性を消防が救助している。その男性も一人で乗りに来ていたようだ。
この男性のことは、ニュースの中には全く出てきていない。
ブラジル人達は、30代、男性4名で来ていたらしい。
操縦者:無免許
船舶検査書類:いくら探しても見つけられなかった。
次回検査時期指定表には、平成25年6月のステッカーが貼ってあった。
行方不明の男性(操縦者):群馬県 大泉町 30代 男性 3名を連れてきた水上バイクのオーナー。
水上バイク:2ストローク(2名乗り)20年前のもの
エンジンにはサビが沢山発生していた。
バッテリーは弱く、ブースターケーブルを繋げて掛けないとエンジンが掛からないようなメンテナンス不良が明らかにわかるようなエンジン。
各地での素性バイクによる水難事故は、ニュースによって毎回取り上げられている。
それと関連付けて、ごく一部の無謀運転、マナー&ルール違反、騒音問題、環境問題等、悪い取り上げられ方のみのニュースが大多数である。
まるで(水上バイクに乗っている者全て悪だ。)というイメージを付けているかのように感じる。
実際、ニュースへのコメント欄には、そういう意見ばかりである。
今回は、Mさんの冷静な判断のもと、国境や人種を超えた勇気ある命懸けの救助活動や、救助要請直後には、水上バイクの機動力・運動性能の良さによって救助に成功し、1名の尊い命が救われている。
大多数が優良なライダーの、今回のこのような報道は、新聞又はテレビ局は一切どこも触れてはいない。
私は、こんな理不尽さに憤りさえ感じる。
最後になりましたが、行方不明の1名の方が一刻も早く見つかりますことを、深くお祈り申し上げます。